<2015-漫-5> 『デッドマン・ワンダーランド』読書記録
<四巻まで>
躍動感のある漫画を書く。エウレカセブンは読んだことないけれど、ロボット漫画を一作書き上げただけのことはあるなあと感心した。 とりあえずここまで。物語の構成を意識して読んでいなかったので、何も見えないし、言えない。
<2015-ア-1>「アンドロイド・アナ MAICO 2010」視聴記録
<4話まで見て>
1,2,3話あたりのMAICOの扱いのひどさには、時代を感じた。ひどいと感じたこと自体、このアニメが放映された1998年から様々な議論が尽くされてきて、アニメ業界や監督、作家が、それらの議論をそれなりに踏まえ、意識してきた結果だなあと思う。
現実に打ち負けた、悲哀をどこかしら感じさせるキャラクターたちと、どこか抜けていておてんばなアンドロイド、MAICOの対比が非常に優れていて、作品としては完成度が高い。
現実に打ち負けた、と表現したけれども、この「負け組たちはどう生きるべきか」というのはこのアニメのメインテーマの一つであるらしく、それぞれのキャラクターの主張の噛み合わなさや、それから生み出される、先行きの暗さをぼんやりと感じさせる雰囲気は、珠玉の出来といえるのではないか。伝助が常に松つぁんから怒鳴られ続けている不条理さも、リアルでいいなあ。
4話は非常に面白かった。アンドロイドが作品に登場する際によく問われる、「機械による人間感情の再現の限界」がテーマであった。このテーマと、負け組と言われていながらも、自らの職務に対してただならぬ誇りやこだわりと責任感を持っている、社会人としての意地とでも表現できるものが、上記の作品の雰囲気の中融合していて、素晴らしい作品となっていた。
<4話以降も見て>
「機械による人間感情の再現の限界」というテーマが4話で持ち出されたと述べたが、突然シリアスになる後半の展開のなかでは常にそのテーマと向き合いつつ話が進んでいるように思われた。
アンドロイド故、机上の空論を諦めること無く、素直に主張し続けるMAICOと、不条理の塊である現実に打ち負けてしまった「負け組」たちの間にはすれ違いが生まれていく。
展開が半ばリアルであるが故に、後半の陰鬱とした展開は質量を伴って、上のすれ違いとともに私たちにのしかかってくるのであるが、上記の、アンドロイド故の欠点を「負け犬」達は弁証法的に引き受けることで、最後には希望とともに幕を閉じる。
おすすめします。
<2015-漫-4>『ドミトリーともきんす』
<2015-漫-4>『ドミトリーともきんす』(高野文子、中央公論新社、2014年)
この作品は、『絶対安全剃刀』の様にそれぞれ複合したテーマを持つ重厚な短編集でなく、また、語ろうとするテーマも多数ある訳ではないと思われる。そのため、高野文子作品の中では、すっきりと読み終えることが出来る作品。
テーマは、出来る限りシンプルに表現するならば、「詩的なるものと科学的なるものの交差」であると言える。しかし、そのテーマを表現する為に様々な工夫が尽くされており、高野文子らしい、濃密な作品となっている。今までの作品とは異なり、作品の意図や工夫点を詳細に高野自身が解説しているため、非常に分かりやすく、味わいやすい作品となっている。
「詩的なるものと科学的なるものの交差」を表現する為に、高野はまず、科学を客観的で直線的な枠組みを持つものと看做し、その科学のありかたを描画の技法に当てはめた。実際に見て頂ければわかるが、非常に説明的で、感情の無い絵である。そうした絵柄を用いて、さらに、詩的叙情を生もうと意識しないように漫画を描いたという。説明的であること、感情を排すことを徹底したその果てに、再び叙情性を復活させる。この無理難題に、高野は挑んだ。
そうして成功させてしまうのが高野の類稀なる力量である。是非とも、実際に読んで、その技術の妙を体感して頂きたい。
詩的叙情の部分については、各話の終わりに科学者の文章を引用しているから、漫画だけの力…とは言い難いけれども、それでも、あまりにも短く、小難しい引用部分に私たち読者をソフトランディングさせてくれるその漫画の力は、評価に値する。
強くお勧めします。
観たい(観た)アニメ
<2015-漫-3>『坂本ですが?』一巻・二巻
<2015-漫-3>『坂本ですが?』(佐野菜見、エンターブレイン(ビームコミックス)、2013年)
中学生っぽいけれん味が、はったりでなく、その大袈裟さに伴う中身を手に入れると可笑しくなってしまう程に格好良い、というお話。
坂本の持つ思想や立ち居振る舞いは、理想的で超人的(作中の言葉を借りるなら、スタイリッシュでクーレスト)であるため、一般的な人間と抱き合わせにすると、まるで「中学生が授業中に思い描く空想」のようで、けれん味に満ちたものになる。坂本のような人が現実に存在することはほとんど有り得ないので、彼に投影されている超人的な人間像を「現実味のないはったり」と切り捨ててしまうことも可能であろう。しかしながら、いじめや非行少年などの問題を(力技でなく)弁証法的に解決していく彼の姿には、希望を持ってしまう。
幼心に求めていた超人の幻想を、僕らは何時しか「そんなのありえない」「けれん味にしか思えない、そんなのを評価するのは馬鹿馬鹿しい」と突き放すようになった。しかし、決して明るい雰囲気とはいえないこのご時世、せめて心の中だけでも、超人的人間像、「坂本」を持つことが求められているのではなかろうか。
<2015-映-5> 『インフォーマント!』
<2015-映-5> 『インフォーマント!』 ("The Informant!" / スティーブン・ソダーバーグ 監督 / マット・デイモン 主演 / ワーナー・ブラザーズ 配給 / 2009年)観た。 >>権威側が常に構造的に上手く立ち回れるようになっていることを風刺しつつ、主人公が「策士策に溺れる」状況に陥っているのが何とも現実的です。
以下若干のネタバレ含む。
権威と主人公が対立する構図の中、両者とも負け(権威がやや勝ち?)という結末のため、ストーリーにわかりやすさ、鮮やかさが出ていない。しかし監督・脚本家は、そうでもして、娯楽作品というハードルを越えつつ、現実味をストーリーに持たせたかったのだろうと思う。それが、仮想上の権威ではなく現実の権威を風刺する為の、洗練された手法であるからである。
<2015-漫-2>『アポロの歌(手塚治虫文庫全集)』
<2015-漫-2>『アポロの歌(手塚治虫文庫全集)』(英題:"The Song of Apollo" 手塚治虫、講談社、2010年{原作は1970年}) 医学博士でもある手塚治虫が、「愛」を主題に、「性」という切り口で迫った作品。愛にボイコットされて育ったために愛を憎む主人公が、様々な経験を通して愛の尊さを理解するまでの物語。
愛にまつわる欲望や性の問題を避けることなく直視し、ありのままに映し出した上で考た作品。主人公は変化しないが、章ごとに主人公を取り巻く環境が変化する。それぞれの環境で一部の要素が重なりあい、一読するだけでは読み切れない、作者の意図や思いを重厚に湛える作品。後半の展開はショッキングではあるが、それを肥える感動が読者には押し寄せる。強くお勧めします。
性のない存在(作中の無性別の人間)にも、愛があるものと描き、愛とは性別や関係性を超えた感情であるとする。
とりあえずここまで。