<2015-漫-4>『ドミトリーともきんす』

<2015-漫-4>『ドミトリーともきんす』(高野文子中央公論新社、2014年)

この作品は、『絶対安全剃刀』の様にそれぞれ複合したテーマを持つ重厚な短編集でなく、また、語ろうとするテーマも多数ある訳ではないと思われる。そのため、高野文子作品の中では、すっきりと読み終えることが出来る作品。

テーマは、出来る限りシンプルに表現するならば、「詩的なるものと科学的なるものの交差」であると言える。しかし、そのテーマを表現する為に様々な工夫が尽くされており、高野文子らしい、濃密な作品となっている。今までの作品とは異なり、作品の意図や工夫点を詳細に高野自身が解説しているため、非常に分かりやすく、味わいやすい作品となっている。

「詩的なるものと科学的なるものの交差」を表現する為に、高野はまず、科学を客観的で直線的な枠組みを持つものと看做し、その科学のありかたを描画の技法に当てはめた。実際に見て頂ければわかるが、非常に説明的で、感情の無い絵である。そうした絵柄を用いて、さらに、詩的叙情を生もうと意識しないように漫画を描いたという。説明的であること、感情を排すことを徹底したその果てに、再び叙情性を復活させる。この無理難題に、高野は挑んだ。

そうして成功させてしまうのが高野の類稀なる力量である。是非とも、実際に読んで、その技術の妙を体感して頂きたい。

詩的叙情の部分については、各話の終わりに科学者の文章を引用しているから、漫画だけの力…とは言い難いけれども、それでも、あまりにも短く、小難しい引用部分に私たち読者をソフトランディングさせてくれるその漫画の力は、評価に値する。

強くお勧めします。