<2015-映-6>『愛、アムール』

<2015-映−6>『愛、アムール』("Amour" / ミヒャエル・ハネケ監督・脚本 / 主演ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ / ロングライド(日本)配給 / 2012年)観た。 >>老境を迎えた音楽家夫婦が過ごしていた平穏な日常が、妻アンナに突然訪れた病によって様相を変えていく。日に日に病態が悪化していくアンナであったが、夫ジョルジュは妻と交わした最後の約束、「病院に二度と連れて行かない」ことを堅く守り通そうとする。妻と最後に交わした約束を、何があろうとも、意思の疎通が不可能になってしまった妻に暗雲が近付こうとも、毅然として守り抜くことを愛の証明として最後まで信じきる夫の姿を描く。 /以下ネタバレ含む

 約束を守ることという愛を、妄信した故に妻は命を落とした…と考えることも出来よう。その筋で考えれば、最後にジョルジュがアンナを殺したのは証明を妄信したが故の責任を、負荷に耐え切れず放棄した、ということになる。しかし、映画の最後、何食わぬ顔で再会を果たしたジョルジュとアンナには、悔やみや恨みといったものは感じられず、むしろ生前、平穏に暮らしていた頃の温度を感じさせる。ということは、ジョルジュがアンナを殺し、自らも命を絶った(であろう)ことは決して過ちとしてではなく、むしろ肯定的なこととしてハネケは描いている。

要するに、(私のせいで陳腐な表現になってしまうが)ハネケにとって愛とは生死を超越した価値を持つものなのである。なぜならば、愛を生のみに付与するものではないと考えていなければ、死によって消失するものでないと考えていなければ、あのラストシーンは描けないはずだからだ。